ライター:能登春子
12月5日より公開
[12月7日アップ]
ペット禁止の寄宿舎の自室で、動物園へ入れるまでと渋々ペンギンの世話を始めたトム。
しかし、フアン・サルバトールと名付けられたペンギンは意外な活躍を見せる。
英語の授業をマジメに受けない生徒たちを見かねたトムが授業にサルバトールを連れていくと、
ペンギンへの興味から生徒たちが素直に授業を受け始めたのだ。
まるで授業の見回りのように教室中をペタペタと歩くペンギン。これぞまさに、ペンギン・レッスン! 
つぶらな瞳の愛らしいペンギンはヤンチャな生徒たちを正すだけではなく、寄宿舎で働く女性
たちやトムの同僚、トム自身など、悲しい出来事に沈み迷える人々の心を優しく温める。
ただ黙って寄り添うだけのペンギンに、しみじみと本音を語りかける人々の姿は微笑ましくも
切ない。
けれどペンギンの無垢な姿に癒された人々はやがて自分の力で答えを見つけていく。
オフィシャルサイト
CINEMAライター 能登春子木香圭介/宮島一美/石倉ことこ
シネマプレイスがお届けするおすすめ映画レビューは独自の視点で新作映画をご紹介しています
思いがけない出会いが人生を変えることがある。
1976年、軍事政権下のアルゼチンで起こった心温まる
実話を映画化。
原作者のトム・ミッシェルが自身の体験を綴った回顧録
『人生を変えてくれたペンギン 海辺で君を見つけた日』
は世界22ヵ国で刊行され、ベストセラーを記録している。
© 2024 NOSTROMO PRODUCTION STUDIOS
S.L; NOSTROMO PICTURES CANARIAS S.L;
PENGUIN LESSONS, LTD. ALL RIGHTS
RESERVED.
トムを演じたのは『ロスト・キング500年越しの恋』のスティーヴ・クーガン。
淡々として、どこか諦念感のあるトムと愛嬌たっぷりのペンギンとの凸凹
コンビにほっこりさせられる。
そして、何と言っても必見なのは前代未聞のペンギンの演技!
主に2羽のマゼランペンギンが担当しており、愛くるしい魅力を振りまいて
いる。
監督は人気コメディ映画『フル・モンティ』のピーター・カッタネオ。
愛らしいペンギンが教える希望の物語
笑いと癒しあふれる社会派ヒューマンドラマ
女性に良いところを見せようとトムはペンギンを助けるが、女性は去り、ペンギンだけが残される。
海に帰そうとしても、なぜかペンギンはトムの元へ戻ってきてしまい、トムは仕方なくペンギンを
連れてアルゼンチンへ帰ってくる。
トムはダンスホールで出会った女性と良いムードに。
そんな時、海岸で重油にまみれた瀕死のペンギンを
見つける。
原作者のトムにとり、ペンギンと暮らした特殊な経験が単なる楽しい思い出ではなく、人生を
変えるほどの意義深い出来事になったのは、軍事政権による圧政に人々が立ち向かった
記憶を留めているからだろう。
軍事政権の非道がはびこった悪しき時代のアルゼンチンを伝える社会派の側面もある。
掲載リスト
 ペンギン・レッスン
 ベリリュー
 TOKYOタクシー
 ジェイ・ケリー
 てっぺんの向こうにあなたがいる
 爆弾
 ローズ家
 ミーツ・ザ・ワールド
 愚か者の身分
 ワン・バトル・アフター・アナザー
 ブラックバッグ
 ザ・ザ・コルダのフェニキア計画
 Dear Stranger
 タンゴの後で
1976年、イギリス人の英語講師トム・ミッシェル
(スティーブ・クーガン)がアルゼンチンの名門寄宿
学校に赴任してくる。
アルゼンチンでは徹底した「左翼狩り」を行う軍に
対して、人々は人民革命軍を組織して軍の弾圧に
抵抗していた。
街で爆撃が起こる危険な状況下で学校が1週間休校
となったことから、トムは不穏なアルゼンチンから
抜け出し、ヴェネズエラへ気晴らしにバカンスに行く。
https://longride.jp/lineup/penguin/
シネマプレイスはあんか通販とともに、楽しい情報をお届けいたします。


山田監督が『釣りバカ日誌』シリーズでおなじみの朝原雄三と
共同脚本を手がけた物語は浩二の家族の事情を深く掘り下げ、
山田監督ならではのホームドラマの要素を加えつつ、原作が
愛される理由でもある厳しい現実に訪れる夢のような奇跡を
見せてくれる大人のためのファンタジーに仕上がっている。
ライター:能登春子
日本兵たちの辛い戦争体験
今、観るべき戦争アニメ映画の佳作
オフィシャルサイト
12月5日より公開
© 武田一義・白泉社/2025
「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」製作委員会
三等身で描かれた愛らしい日本兵たちが伝えるのは、
太平洋戦争末期に日本から遠く離れた南国の美しい
島・ペリリュー島へ送られた日本兵たちの壮絶な戦い。
白泉社の青年漫画雑誌『ヤングアニマル』で2016~
2021年まで連載され、かわいらしいタッチで戦争の
狂気を描き、2017年に日本漫画家協会賞優秀賞を
受賞した人気戦争漫画が長編アニメーション映画と
なった。
ライター:能登春子
11月21日より公開
[11月23日アップ]
映画の主なシーンは、すみれと浩二の会話劇として進行する。
壮絶な経験を朗らかに話して説得力を持たせる倍賞千恵子とともに、タクシーの運転席で多彩な
顔を見せる木村拓哉がさすがの存在感だ。
50代になってもカッコよさは変わらず、生活に苦労している感じがあまりしないのは否めないが、
すみれの話から自らの生き方を振り返る浩二の心の変容を丁寧に演じ、観る者の共感を誘う。
そして、ティモシーの言葉に傷ついたジェイが、興味の無かったイタリアの映画祭の功労賞を受ける
と言い出したことから、マネージャーのロン(アダム・サンドラー)や広報担当のリズ(ローラ・ダーン)
たちスタッフは大慌てでヨーロッパへ旅立つことに。
本作は偉大な女性登山家・田部井淳子の、山とともに
生きた人生を、彼女を取り巻く人々との関係を軸にして
描いた温かなヒューマンドラマ。
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また、意味不明な言葉を並べ立てるスズキとの心理戦に翻弄される刑事たちの
反応も見どころで、佐藤と真っ向勝負を挑む山田のほか、渡部や、伊藤沙莉、
寛一郎なども印象深い演技を披露している。
演技巧者の俳優たちを巧みに導き、謎をたたみかけるようなテンポのよい演出で、
怒涛のエンディングまで突っ走るのは『帝一の國』(’17年)、『キャラクター』
(’21年)の永井聡監督。
アイビーの成功に嫉妬するテオと、仕事にまい進するあまりテオを邪険にするアイビー。
夫婦の立場が逆転したことで芽生えた互いへの負の感情が夫婦の溝を広げていく。
昭和19年、パラオ南西部にあるペリリュー島。
21歳の日本兵・田丸(声・板垣李光人)は漫画家志望
で、島でも絵や物語を考えてはメモ帳に綴っており、
その才を買われて「功績係」に任命される。
それは亡くなった仲間の勇姿を遺族に向けて書き記す
仕事だった。
山田洋次監督と木村拓哉が辿る人生の旅
厳しい現実を乗り越えた先にある奇跡の物語
この映画の原作は、タクシーでパリの街をめぐりながら
人生の終活をする老マダムと人生に悩むタクシー運転手
との不思議な縁を描く、滋味深いフランス映画
『パリタクシー』(’22年)。
日本映画の名匠・山田洋次監督が東京に舞台を移し、
小粋で味わい深いヒューマンドラマを完成させた。
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自分本位な言動で家族やスタッフたちが離れていくジェイをロンが支えようとするのは、
仕事のためか、それとも友情なのか?ハチャメチャだけど心根はピュアなジェイを演じる
クルーニー、見るからに優しそうなロンを演じるサンドラーが絶妙なコンビネーションで、
胸が熱くなるドラマを見せてくれる。
物語は女性初のエベレスト登頂を成功させた若き日の多部純子(のん)が日本へ帰国する
シーンで始まる。
純子の偉業を称え、多くの報道陣が空港に詰めかけるなか、純子は若き日の夫・正明(工藤
阿須加)と幼い娘・教恵の姿を見つけて安堵する。
時は2010年、純子(吉永小百合)はステージⅢCの腹膜がんを告知される。
正明(佐藤浩市)が落ち込む一方で当の純子は明るく振る舞い、いつもと変わらない日々を送る。
そして、余命宣告を受けながらも、長年の親友・北山悦子(天海祐希)を誘ってキャンプへ
行ってしまう。
連続爆発事件の謎を巡るスリリングな攻防
個性派俳優・佐藤二朗の怪演に翻弄される
「このミステリーがすごい!2023年版」、「ミステリーが
読みたい!2023年版」で第1位を獲得した、呉勝浩の
超一級のミステリー小説の映画化に挑んだ本作は、
とにかく“すごい!”とうなってしまう。
ライター:能登春子
10月24日より公開
[10月26日アップ]
実力派の俳優陣の白熱した演技バトル、謎解きの
醍醐味が堪能できるストーリー展開、スピード感と
重厚感あふれる映像、そして、闇深い現代社会への
問題提起となり得るメッセージ。
衝撃的なラストシーンまで圧倒的なスケール感で
描き切り、日本映画の高いエンターテイメント力を
見せつける驚愕のミステリーサスペンス映画が登場
した。
36年ぶりに復活した最恐の夫婦喧嘩
シニカルなユーモアはパワーアップ
夫婦の離婚問題が命を奪い合うまでの闘いに発展
する―。
マイケル・ダグラスとキャスリーン・ターナーが互いに
一歩も引かないローズ家の夫婦を演じ、壮絶かつ
抱腹絶倒の夫婦喧嘩を繰り広げたブラックコメディ
『ローズ家の戦争』(’89年)を再映画化。
ともにイギリス出身の演技派俳優ベネディクト・
カンバーバッチとオリヴィア・コールマンが、問題の
ローズ家の夫婦をリアリティたっぷりに演じている。
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未来が見えなくて悩んでいても、“推し”を語るときは楽しそうだし、おいしい物を食べるときは
うれしそう。
そんな等身大の20代女性を杉咲が軽快に演じている。
キュートな杉咲とバディを組むのは、ドキッとするような美しさのある19歳の新星・南琴奈。
物静かなセリフ回しは、飄々と「死」をほのめかす危うげなライ役にピッタリだ。
© 2025映画「愚か者の身分」製作委員会
仲間の死を時に嘘を交えて美談に仕立てることに戸惑う田丸は、勇敢で頼れる同期の上等兵・
吉敷(声・中村倫也)とともに励まし合い、苦悩を分かち合いながら特別な友情を育んでいく。
日本の戦局が悪化する中、ペリリュー島の戦いでは4万人の米軍部隊に対し、日本兵は1万人
だったという。
圧倒的に不利な情勢のなか、米軍の攻撃を逃れた日本兵たちは洞窟に潜み、米軍の食料や
武器、物資を盗みながら持久戦を試みる。
ところが、戦いが長引くにつれ敵意は米兵だけでなく、仲間の日本兵にも向けられる。
[11月16日アップ]
主演は山田洋次監督作品をはじめ、昭和の時代から
日本映画界で活躍し続ける倍賞千恵子。
共演に迎えたのは、『武士の一分』(’06年)以来、
19年ぶりに山田監督とタッグを組む木村拓哉。
映画でもテレビドラマ発のヒーロー然とした主人公を
演じることの多い木村が、家庭の経済的な問題を抱えて、
あくせく働く“普通”のタクシー運転手を演じているのが
大きな注目となっている。
ライター:能登春子
ジョージ・クルーニーとアダム・サンドラーが
名コンビを組む、笑いと涙のロードムービー
11月21日より一部劇場にて公開
12月5日よりNetflixにて独占配信
純子と悦子はテントに寝そべり満点の星空を見上げながら、2人の出会うきっかけともなった
女子登山クラブでエベレスト登頂を目指した日々を振り返る。
現在の純子の生活のはざ間に、純子の苦い過去が挿入される。
純子が脚光を浴びたエベレスト登頂は共にエベレストを目指した山仲間たちとの決別につながった
こと、稀有な女性登山家としての活躍が長男・真太郎(若葉竜也)との距離を広げたことなど、
決して良いことばかりの人生だったわけではない。
それでも、良き理解者の正明に支えられながら、着実に自分の道を切り拓いてきた純子は晩年
になり、死が静かに迫りながらも、新たなプロジェクトに希望を見い出す。
[11月30日アップ]
荘厳で豪華な歴史的建造物、路面のカフェやセーヌ川沿いの景色、普通の道さえ小洒落た
パリの街並みに負けず、人情が宿る東京の下町・柴又から始まる東京めぐりもなかなか乙で
見応えがある。
レンガ造りの東京駅、のどかな上野公園・不忍の池、銀杏並木が鮮やかな神宮外苑など東京の
名所に加え、ロマンティックな夜の横浜をめぐりながら、すみれの壮絶な人生経験が明かされる。
映画の撮影がクランプアップしたジェイ・ケリー(ジョージ・
クルーニー)は、次の映画プロジェクトが始まるまでの
休暇を娘のデイジー(グレイス・エドワーズ)と過ごそうと
思っていたが、デイジーは高校の卒業旅行で友人たちと
ヨーロッパへ行ってしまう。
女性登山家に扮した吉永小百合が登る
“人生の山” 苦い経験を乗り越えた
先にある希望と癒しの物語
アニメーション制作は『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』などを手がけたシンエイ動画。
キャラクターはカワイイけれど、戦闘シーンは残酷で生々しい。
アニメーションだからこそ描ける戦場のリアルを伝えようとする意気込みが感じられる。
人生の終焉を迎える85歳の高野すみれ(倍賞千恵子)が東京から神奈川県葉山にある高齢者
施設へ行くまでの道のりで、自身の人生を振り返る旅をする。
旅の相棒にさせられたのは、すみれを迎えに来たタクシー運転手・宇佐美浩二(木村拓哉)。
自由気ままに東京をめぐるすみれに対し迷惑顔の浩二だったが、タクシー内で繰り広げられる
人生の酸いも甘いも噛み分けた老マダムとの語らいは、日々の生活に追われていた浩二に
大切なことを思い出させる。
ハリウッドのトップスター、ジョージ・クルーニーが
有名な映画俳優ジェイ・ケリー役に扮するコメディ
タッチのヒューマンドラマ。
オフィシャルサイト
実際に田部井淳子は、2012年から東日本大震災で被災した東北の高校生たちのための富士山
登山プロジェクトを開始し、自身もがんの身体をおして高校生たちと富士山登山を楽しんだという。
映画終盤で描かれるこのエピソードからは、どんな時でも前向きな純子の人間的魅力と、傷ついた
人の心を癒す山の効力を感じられるだろう。
酔った勢いで自販機と店員に暴行を働き、警察に連行
された一人の謎の中年男(佐藤二朗)。
野方署の刑事・等々力(染谷将太)が取り調べにあたる
が、「スズキタゴサク」と名乗る男は「名前以外の記憶を
すべて忘れた」とひょうひょうと語り、取り調べは一向に
進まない。
配給:ワーナーブラザーズ映画  2025年/
日本公開作品/137分/映倫区分:PG12
© 呉勝浩/講談社 2025 映画『爆弾』製作
委員会
仕事での成功をめざすあまりに、家族や友人たちと
仲良く過ごす私的な時間を蔑ろにしていたケリーに
突き付けられたのは、「自分は誰からも愛されて
いないのでは?」という深い孤独感。
そんな哀しい現実を振り払おうとするジェイの人生
再生をめざす旅が描かれる。
ライター:能登春子
10月31日より公開
[11月9日アップ]
漫画執筆時に綿密な取材を行ったという原作者の武田一義が共同脚本を手がけたストーリー
は、田丸と吉敷の友情を軸に“忘れられた戦い”とも呼ばれるペリリュー島の戦いの驚くべき
史実を明らかにしており、とても興味深い。
©2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
壮大な戦いを描くファンタジックなアニメ映画が熱狂的な人気を
博しているなかで、太平洋戦争の映画と聞けばアニメファンは
気が重くなるかもしれない。
また、戦争映画が好きでもアニメと知れば躊躇するかもしれない。
しかし、悲惨な戦争の真実を分かりやすく伝え、先人たちが苦難
の末に生きた証を語り継ぐ意義深い映画をぜひ見逃さないで
ほしい。
大きな感動をもらえるはずだ。
幼い頃の戦争の傷跡、戦後の混乱期に芽生えた甘い恋と別れ、結婚相手からのDV…、
さらに続く波乱万丈の人生。
すみれの過去は『パリタクシー』をなぞっているものの、山田版の方がドラマチックで濃密に
描かれている。
美しさと哀しみが入り混じった過去を生きた若い頃のすみれを演じるのは蒼井優。
薄幸にもめげず凛とした強さを持つ昭和の女性をしなやかに演じている。
ジェイは彼の成功を導いてくれた旧知の映画監督ペーター・シュナイダー(ジム・ブロードベント)の
葬儀で、数十年ぶりに演劇学校の友人ティモシー(ビリー・クラダップ)に出会うが、俳優をあきらめた
ティモシーの言葉をきっかけに殴り合いの喧嘩になってしまう。
今からちょうど50年前の1975年、女性で初めてエベレスト
登頂に成功した女性登山家・田部井淳子は一躍、時の
人となり、その後も世界最高峰の山々を制覇していくが、
華麗な登山家としてのキャリアには常に葛藤が
つきまとっていた。
https://peleliu-movie.jp/
世界をまたにかけた登山家の偉業にスポットを当てるのではなく、
誰もが向き合う人生の悩みを抱えた登山家の素朴な姿を捉えて
おり、心に沁みる物語となっている。
監督・脚本は『イカとクジラ』(’05年)、『マリッジ・ストーリー』(’19年)
など優れたストーリーテリングに定評のあるノア・バームバック。
出演もしている女優のエミリー・モーティマーが共同脚本を手掛けている。
クルーニーのために書き下ろされた脚本は、映画スター、クルーニーへの愛が
あふれているラストシーンも見どころ。
映画を純粋に楽しむことの素晴らしさも思い出させてくれるラストシーンは、
映画好きには心に深く刺さるだろう。
ところが、「霊感だけは自信がある」と言うスズキが「10時に秋葉原で何かがある」と話すと
実際に秋葉原のビルで爆弾が爆発する。
その後、スズキがあくまでも「霊感でわかった」と話すには、他にも爆弾が仕掛けられている
らしいのだ。とぼけた言動とは裏腹に恐るべき爆弾魔なのかもしれない不気味なスズキと、
彼の真意を探る刑事たちとの取調室での攻防を軸に、都内各所を大胆に使ったスリリングな
爆弾探しの顛末が描かれる。
©2025 SEARCHLIGHT PICTURES.
ALL RIGHTS RESERVED.
ライター:能登春子
10月24日より公開
建築家のテオ・ローズ(ベネディクト・カンバーバッチ)と
シェフのアイビー・ローズ(オリヴィア・コールマン)は
14年前、出会った瞬間に一瞬にして惹かれ合い、結婚
する。
それから10年後、テオの夢を追いかけてロンドンから
カリフォルニア州のメンドシーノへ渡った夫婦は双子の
子どもたちとともに幸せに暮らしていた。
ライに出会ったことで由嘉里は歌舞伎町の“訳あり”な人々とつながる。
既婚者なのに不特定多数から愛されたいホストのアサヒ(板垣李光人)、すべての人を
受け入れる歌舞伎町のBAR「寂寥」の店主・オシン(渋川清彦)や、「寂寥」の片隅に
ひっそり座る毒舌な作家・ユキ(蒼井優)。
人生の深い闇を知る人々の強さに触れ、自己肯定感の低い由嘉里は変わっていく。
タクヤに対し不信感を抱くマモルが自宅にいると佐藤らが乗り込んできて、マモルはひどい
暴行を受ける。
翌日、佐藤に命じられマモルがタクヤの部屋へ向かうとそこにはおびただしい血痕が残されて
いた。
貧困や後ろ暗い理由により戸籍を売るまでに追い詰められる人がいることに驚き、現実の厳しさ
に気持ちが沈むが、衝撃を受けるのはタクヤの身に降りかかることだ。
目を背けたくなるような凄惨な出来事を経験するタクヤを演じた北村匠海は、覚悟を感じさせる
迫真の演技で物語を引っ張っていく。
© 2025 WARNERS BROS. ENT.
ALL RIGHTS RESERVED.
ライター:能登春子
9月26日よりロードショー
オフィシャルサイト
デル・トロのほかにも愛すべきクセ者キャラクターたちを生み出すために
トム・ハンクスやベネディクト・カンバーバッチ、スカーレット・ヨハンソンら
豪華スターが集結。
ぶっ飛んだ役柄をすまし顔で演じているギャップが面白すぎる。
終始無表情のリーズルを飄々と演じたミア・スレアプトレンはケイト・
ウィンスレットの娘という。
アンダーソン監督が“本物”にこだわったザ・ザの大邸宅にある歴史的な
芸術品も見どころ。
物騒なニューヨークの光景を捉えた映画冒頭から不穏な雰囲気が漂う。
怪しげな廃墟に忍び込む賢治や、巨大な人形に心酔するジェーンは少し謎めいて見える。
そんな中、カイの誘拐事件が起こり、夫婦それぞれが胸に秘めていた過去の秘密や苦悩が
明らかになる。
ジェーンが仕事で不在だったことから、カイを大学に連れて行った賢治が目を離したすきに
カイはいなくなってしまう。
そのため、2人は互いの不注意な行動をなじり合う。
カイが行方不明になってからは、夫婦の口論ばかりで聴いていて辛くなるが、子どもの誘拐
という異常事態は理性を奪い、2人は感情のままに本音をぶつけ合う。
そして、互いの行動に疑問が生まれ疑心暗鬼に陥っていく。
2024 © LES FILMS DE MINA / STUDIO CANAL
/ MOTEUR S’ IL VOUS / FIN AOUT
本作は、マリアのいとこでジャーナリストのヴァネッサ・
シュナイダーの著書を基に、マリアの波乱の人生を
マリアの視点で描き、女性の尊厳を踏みにじられた
マリアの痛切な訴えを発信する。
ベルトリッチ監督は『ラスト~』で米アカデミー賞監督賞
候補になり、後に歴史大作『ラストエンペラー』(’87年)
を手がけて大きな飛躍を遂げる一方で、19歳で『ラスト~』
の主人公の女性を演じた女優マリア・シュナイダーは
その後の人生を狂わせていく。
自ら脚本も手がけるアンダーソン監督のエッジの効いた
世界観は、自国アメリカのアカデミー賞では、彼を
ノミネートの常連に留めているが、本作での見事な
突き抜けぶりはついにアンダーソン監督がオスカーを
手にするかもしれないと期待させる。
共演のショーン・ペンとベニチオ・デル・トロも加わり、
豪華俳優陣が織り成すスリリングでスタイリッシュ、
ユーモラスでクレイジーなアンダーソン監督劇場を
とくとご覧あれ。
[9月29日アップ]
[10月19日アップ]
朗らかで心優しく、凛とした強さをもつ純子を吉永が軽やかに
演じている。
70年代のポップな衣装に身を包み、はつらつと若き日の純子を
演じるのんは、過酷な雪山での撮影に挑んでいる。
『どついたるねん』(’89年)の坂本順治監督が、『北のカナリア
たち』(’12年)以来、13年ぶりに吉永小百合とタッグを組んで
いる。
野方署には警視庁捜査一課・強行犯捜査係による捜査本部が置かれ、スズキの取り調べは
等々力に替わり、強行犯捜査係のベテラン刑事・清宮(渡部篤郎)と、部下の類家(山田裕貴)
が行うことになる。
謎の男・スズキを怪演する佐藤二朗がまさにハマり役。個性派バイプレイヤーとして着実に
存在感を示してきた佐藤が大作映画の要として、その個性をいかんなく発揮している姿は
感慨深い。
売れっ子の建築家として活躍するテオはアイビーの夢も叶えようとビーチを臨む物件を購入し、
アイビーが自慢の腕を振るうシーフード・レストラン「カニカニ・クラブ」の開業を後押しする。
人生に迷える腐女子が飛び込んだ歌舞伎町
新しい世界で見つけた「生きづらさ」の解決法
デビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞した金原ひとみの同名小説を、
『くれなずめ』(’21年)の松居大悟監督が映画化したライトタッチの
ヒューマンドラマ。
腐女子の愛らしい実態も、実は初めて出会う世界という人も多いだろう。
彼女たちの“推し”への確固たる愛はうらやましいくらい。
何かを心から愛する強さがあれば、「生きづらい現実」も楽しく
変わるのかもしれない。
裏社会で生きる梶谷は、物語後半でタクヤの命運を握る重要な役どころとなる。
鬼気迫る北村に対するのは、闇の世界に落ちた梶谷の心の揺れを繊細に表現する綾野。
人気と実力を兼ね備えた2人が激しくぶつかり合い、“愚か者”に成り果てようとしていた
若者たちの“生きるため”の闘いに観る者を引き込んでいく。
元革命家のボブ(レオナルド・ディカプリオ)は、かつてカリスマ革命家ビバリーヒルズ(タヤナ・
テイラー)と激しい恋に落ちて結婚、一人娘のウィラに恵まれたが、革命家として生きる道を選んだ
ビバリーヒルズはボブとウィラの元から去ってしまう。
そして、ボブはウィラを守るために身を隠すことにする。
[9月21日アップ]
エリートスパイたちの巧妙な頭脳戦を描く
愛と疑惑に満ちたミステリーサスペンス
ライター:能登春子
9月19日よりロードショー
そんな互いを思い合う夫婦の関係が一変したのは、テオがデザインしたイーストベイ海洋博物館
のオープニングの日。
嵐による強風でテオ自慢のデザインが崩れたことがSNSで拡散され、テオは建築家の仕事を
失ってしまう。
一方、嵐のおかげで「カニカニ・クラブ」は大繁盛。
さらに料理評論家がアイビーの料理を絶賛した記事を書いたことから、アイビーのシェフとしての
評判が高まっていく。
「世の中が生きづらい」と感じるのは、大多数の人に
とっての“普通”や“当たり前”とされる生き方をして
いない自分を卑下しまうからではないか?
多様性の時代と声高に叫ばれながらも、“普通”や
“当たり前”ではない生き方への世間の視線は
まだまだ冷たい。
そんな中で、「生きづらさ」を克服するには他者と違う
自分の生き方を自信をもって受け入れることが大切だ。
それには、さまざまな痛みを経験し、悩んだ末に築か
れた多種多様な価値観をもつ人々に会い、「世界は
広い」と感じることがいい。
[10月13日アップ]
オフィシャルサイト
女流作家・西尾潤が第二回大藪春彦新人賞を受賞した同名短編小説を、
『渋谷区円山町』(’07年)の女流監督・永田琴が映画化。
『ある男』(’22年)の向井康介が脚本を手掛けている。
16年後、革命家の見る影もないビルは、自立した高校生になったウィラ(チェイス・インフィニティ)
に甘いシングルファーザーとして、平凡ながらも冴えない日々を送っていた。
そんな時、革命家時代のボブとビバリーヒルズに深い因縁を持つ軍人“ロックジョー”(ショーン・
ペン)がボブとウィラを捕まえようと動き出す。
冴えない元革命家のボブが不気味なロックジョー率いる軍の追跡を逃れながら、ウィラを助けに
行く姿が、スリリングなアクションにユーモアを交えて描かれる。
『トラフィック』(’00年)、『オーシャンズ』シリーズ
(’01~’07年)など、多彩なジャンルで豊かな才能を
いかんなく発揮してきたスティーブン・ソダーバーグ監督
の最新作は、裏切り者のスパイを探すミステリー
サスペンス映画。
脚本は、『ジュラシック・パーク』(’93年)、『ミッション:
インポッシブル』(’97年)など、数々の人気エンター
テイメント映画の脚本を手掛けてきたデヴィッド・コープ。
愛すべきクセ者キャラクターが続々登場
ウェス・アンダーソン監督のシュールな
ハートフルコメディ
愛し合った夫婦、血を分けた家族であっても、人の心の奥底まで知ることは
難しいのかもしれない。
それでも、一番身近な他人と幸せに生きる方法を見つけたい、と思わせる
作品である。
真利子監督が日本語で手がけた脚本を英訳し、セリフの90%以上は
英語となっている。
英語セリフに挑戦した西島秀俊と、クールビューティーな台湾出身の
グイ・ルンメイが鬼気迫る熱演で、ミステリアスなキャラクターに息を吹き込む。
ダニエル・ジェラン(イヴァン・アタル)の婚外子として生まれたマリア・シュナイダー(アナマリア・
ヴァルトロメイ)は、母のマリー(マリー・ジラン)と2人で暮らしていたが、ダニエルの撮影現場へ
行ったことがマリーの怒りをかい、家を追い出されてしまう。
マリーの弟家族に支えられながらマリアはモデルを経て女優となり、19歳でベルナルド・
ベルトリッチ監督と出会い、大人のラブストーリー『ラストタンゴ・イン・パリ』の主演女優に
抜擢される。
映画冒頭、家庭環境に恵まれないマリアの姿に辛くなる。
父のダニエルとの交流はあるものの、1人で生きることを余儀なくされたマリアに映画界からの
仕打ちが待ち受ける。
[9月14日アップ]
貫禄たっぷりのベニチオ・デル・トロがバスタブから
渋い顔で見つめているという映画のメイン写真を
見ているだけで思わず笑いがこみ上げてしまうのは、
本作がウェス・アンダーソン監督の映画だから。
ライター:能登春子
9月12日よりロードショー
裏社会の恐ろしさ、裏社会で生きざるを得ない若者たちの苦しみが
充満した衝撃的な作品だが、どんな状況でも生き抜ぬくことの尊さ
を伝えている。厳しい現実世界の落とし穴にはまらないよう、ぜひ観てほしい。
https://www.cinemalineup2025.jp/jaykellyfilm/
キャリアと引き換えに他者を思う心を忘れてしまう主人公というのは類型的だが、映画スターに
したことで映画業界に関わる人それぞれの苦労と葛藤が垣間見えるストーリーはとても興味
深くておもしろい。
俳優は激しい競争を経てスターになり、名声を得てからはどこでも人々に取り囲まれ、外向きの
顔を求められる。
俳優の子どもは画面の中で演じる親の役柄に複雑な思いを抱く。
そして、マネージャーは自分の私生活を顧みず、無理なことも言う俳優に寄り添い続ける。
©「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
主演の吉永小百合が田部井淳子をモデルにした
主人公・多部純子を演じている。
実際に富士山など山登りをするシーンもあるが、老練の
吉永が目指すのは苦しみと喜びに満ちた“人生の山”
である。
ライター:能登春子
10月31日より公開
[11月2日アップ]
“スター”の性(さが)なのか、自分本位なジェイと、彼を献身的に支えるロンとの関係を中心に、
人が“心”で繋がることの大切さを説く。
https://movies.shochiku.co.jp/tokyotaxi-movie/
https://www.teppen-movie.jp/
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誘拐事件の真相とともに興味を引かれるのは、一番信じたい人を信じられない悲劇の行方。
この映画では、共に移民の2人は激しい口論になると互いの母国語を使い、話し合うことが
できなくなるというシーンがあり、他人が分かり合うことの絶対的な難しさと大切さを痛感させる。
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https://zsazsakorda-film.jp/
誰もが他人の尊厳を奪うことに加担しているかもしれない――。
現代にも根深く巣くう社会の悪習を冷静に指摘し、問題提起をした意義深い
作品となっている。
そして、マリアを悲劇のヒロインにとどめないラストが素晴らしい。
絶望でボロボロになるマリアを体当たりで演じたアナマリア・ヴァルトロメイは
フランス映画『あのこと』(’21年)で数々の賞に輝いたフランス期待の若手女優。
ポン・ジュノ監督作『ミッキー17』でハリウッド進出を果たしている。
『ラスト~』のマーロン・ブランドをかつての青春スター、マット・ディロンが大人の
魅力たっぷりに演じているもの話題。
些細なことで気持ちがすれ違い続けるローズ夫妻をさらに混乱させるのは、あけすけな
アメリカ人の友人夫婦たち。
夫婦公認で他人と恋愛するオープンマリッジ関係の夫婦など、セクシャルな話題や描写が
頻出すると思ったら、脚本は『哀れなるものたち』(’23年)のトニー・マクナマラ。
オリジナル版のイメージを想定しているとまったく覆されるが、奇想天外なストーリーを
生み出すマクナマラならではの、先進的でシニカルな大人のジョークを楽しみたい。
© 金原ひとみ/集英社・映画
「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
闇バイトで生きる若者たちの未来とは?
日本の厳しい現実社会の闇に迫る衝撃作
疑人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」の推しカプを全力で愛する由嘉里(杉咲花)は、
27歳になり、結婚や出産などで腐女子仲間が次々に離脱するなか、このまま仕事と趣味
だけで生きていくことに焦りを感じ、婚活を始める。
ところが、他人に合わせて無理をした合コンで由嘉里は酔いつぶれてしまう。
そして新宿・歌舞伎町の路上でうずくまっていた由嘉里の前に、美しいキャバ嬢・ライ(南琴奈)
が現れる。
闇ビジネスの世界に身を落とした若者たちが経験する
壮絶な3日間を描くサスペンスタッチのヒューマンドラマ。
裏社会に生きる3人の若者たちを演じた北村匠海、
綾野剛、林裕太が、第30回釜山国際映画祭
コンペティション部門で3人そろって最優秀俳優賞に輝き、
大きな注目を集めている。
ライター:能登春子
レオナルド・ディカプリオとショーン・ペンが対決
異才ポール・トーマス・アンダーソン監督の
会心作
10月3日よりロードショー
[10月6日アップ]
テオは建築家としての威厳と夫婦の絆を取り戻すために、瀟洒な新居を
建てるが…。
クライマックスは新居を舞台にしたローズ夫妻の決戦。豪華なシャンデリア
にニヤリとしてしまうが、予測不能なアクションシーンはスリル満点で、
オリジナル版よりパワーアップしている。
監督は『オースティン・パワーズ』シリーズ(’97~’02年)、『スキャンダル』
(’19年)など、コメディや社会派ドラマなど多彩なジャンルに精通する
ジェイ・ローチ。
https://orokamono-movie.jp/
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https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/
そして、本作の見どころの一つでもあるのが、ショーン・ペンが演じる“変態”軍人ロックジョー。
どんな変態ぶりなのかは観てのお楽しみだが、ひねくれた根性がにじみ出る容姿や、軍人
そのものの体格と歩き方など、ショーン・ペンの徹底した役作りに驚かされる。
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上映時間2時間42分の長尺だが、ストーリーの斬新さや、俳優たちの妙演、
ビスタビジョンで撮影された映像の臨場感など、映画を観る醍醐味がたっぷり
味わえる。
英国のサイバーセキュリティセンター〈NCSC〉のエリート諜報員ジョージ(マイケル・
ファスベンダー)は、世界を揺るがす不正プログラム〈セヴェルス〉を盗み出した組織内部
の〈裏切り者〉を探し出す極秘任務〈ブラックバック〉にあたることになる。
また、革命というモチーフが示す闘いの連鎖は、現在の争いの絶えない世界に
ついて思わず考えさせられる。
人々を苦しめる理不尽で邪悪な存在にカツを入れるような痛快なメッセージが
最大の魅力だろう。
ロックやヒップホップ、オールディーズや讃美歌など、趣向を凝らしたシーンを
彩る音楽がカッコいい。
音楽スコアは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以降、アンダーソン監督すべての
楽曲を手がけるレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが担当している。
5名の容疑者は、諜報員のフレディ(トム・バーク)、ジミー(レゲ=ジャン・ペイジ)、情報分析官の
クラリサ(マリサ・アベラ)、局内カウンセラーのゾーイ(ナオミ・ハリス)、そして、ジョージの妻で
凄腕諜報員のキャスリン(ケイト・ブランシェット)だった。
本心を隠し、人を欺くことに長けたスパイたちの嘘を見破れるか。知的な裏切り者探しの顛末は
終始、スタイリッシュで静かな緊張感に包まれている。
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[9月7日アップ]
1人の女性が尊厳を奪われていく姿は衝撃的で、観ているだけで苦しくなってくる。
やはり当該シーンを芸術と呼ぶことに疑問が湧いてくる。
『タンゴ』の後で苛烈なトラウマに苦しむマリアはドラッグに依存し女優生命の危機を迎えるが、
恋人の女性ヌール(セレスト・ブランケル)の懸命な支えにより、立ち直っていく。
舞台は1950年代ヨーロッパ、“現代の大独立国フェニキア”。
やり手の実業家ザ・ザ・コルダ(ベニチオ・デル・トロ)は冷酷で強引なやり口がたたり、ライバル
企業だけでなく各国の政府から常に命を狙われている。
2019年より1年間、新進芸術家海外派遣制度でアメリカ
へ留学した真利子監督が新作の舞台に選んだのは、
人種のるつぼニューヨーク。
移民であるアジア人夫婦を主人公にした夫婦の崩壊劇
は、“見知らぬ他人”である人間を、家族として愛する
ことになる“夫婦”という人間関係の不思議に迫って
いる。
日本人の大学助教授・賢治(西島秀俊)は中華系
アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)と幼い息子
のカイとニューヨーク・ブルックリンで暮らしている。
疑惑の筆頭はジョージに隠れて秘密の出張へ向かう妻のキャスリン。
ミステリアスなキャスリンを演技派ケイト・ブランシェットがクール
かつエレガントに演じ、巧妙な会話劇で練り上げられたスパイたちの
頭脳戦を華やかに盛り上げる。
極秘任務を通して妻への愛を試されることになるジョージの姿が
物語の肝となる。
スリリングなスパイミステリーの醍醐味と、スパイの人間的側面に
迫った心理ドラマがじっくり味わえる一級のエンターテイメント映画と
なっている。
ライター:能登春子
芸術かポルノかで物議を醸した1シーンの真相
映画に尊厳を奪われた女優の名誉回復に挑む
意欲作
9月5日よりロードショー
イタリアの名匠ベルナルド・ベルトリッチ監督が気鋭の
若手監督として注目を集めていた1972年に発表された
『ラストタンゴ・イン・パリ』は、過激な性描写シーンが
世界的な物議を醸した問題作である。
監督・脚本はフランス出身の女流監督ジェシカ・パルー。
過激な性描写で知られるベルトリッチ監督作『ドリーマーズ』(’03年)ではインターンとして
撮影に関わっていたという。
マリアの悲劇はベルトリッチの才能が暴走したことがきっかけではあったが、
彼の蛮行を黙って受け入れた現場スタッフや、後にマリアを性的なイメージで
捉えた一般の人々の態度が招いたことでもある。
6度の暗殺未遂を生き延びたザ・ザは、キャリアの集大成となる大規模プロジェクト「フェニキア
計画」に取り組もうとしていたが、自分にもしものことがあった時のために、疎遠になっていた
一人娘で修道女見習いのリーズル(ミア・スレアプトレン)を後継者として育てることにする。
5歳で母を亡くした後、修道院へ入れられたリーズルはザ・ザにある疑念を持っているものの、
彼女なりの目的のためにザ・ザとともに「フェニキア計画」の資金集めの旅に出る。
ザ・ザの特異性を印象づけるブラックユーモア全開を冒頭から乞うご期待! 
奇妙な設定が満載されたストーリーは展開的に意味不明なところもあるが、滑稽さと哀愁が
共存したアンダーソン監督印のキャラクターたちはやっぱり魅力的で愛しくなってくる。
©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
ニューヨークの大学で建築の研究をしている賢治は自分の研究が評価されないことに
悩んでいた。
一方、人形劇団のアートディレクターを務めるジェーンは育児や父の介護に追われ、仕事を
抑えざるを得ない。
孤独な中年男性と若いパリジェンヌによる、本能むき出し
の情愛の光景は人間の本質を捉えた崇高な芸術なのか、
監督の欲望が生んだ悪趣味なポルノなのか。
その判断は観る側により真っ二つに分かれ裁判沙汰にも
なったが、映画としての評価はとても高く、映画史を語る
うえで不可欠な作品と言えるだろう。
オフィシャルサイト
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実際に伴侶への不満を溜めるている夫婦への荒療治とも言える徹底的な夫婦喧嘩を見せて
くれるのが、この映画の醍醐味だ。
オリジナル版では、「そこまでやるか~」という程、ハチャメチャな攻撃がまるでコントのような
面白さを感じさせ痛快なユーモアとして好評を博したが、本作は「そこまで言うか~」という程、
皮肉たっぷりの口撃で夫婦の溝が深まる過程を胸がチクチクするような痛みとともに描き、
気楽に笑ってばかりはいられない。
https://wwws.warnerbros.co.jp/bakudan-movie/
他者の“普通”や“当たり前”にとらわれない世界が
きっとあるはず、と信じてみたくなる。
27歳で腐女子であることから、自分の生き方に悩む
ヒロイン・由嘉里とともに、まだ見ぬ世界へ会いに行こう!
ライター:能登春子
10月24日より公開
オフィシャルサイト
かつて身につけた革命家の能力が鈍りまくっているボブはとにかく必死で逃げ回るしかない。
髪を振り乱し、必死の形相で駆け回る、巻き込まれ型のヒーロー、ボブをディカプリオが大熱演。
コントのようなやり取りも見せるボブに親しみが湧いてくる。
ボブの逃走劇を楽しく盛り上げるのは、ベニチオ・デル・トロ演じるウィラが習う空手道場の
“センセイ”。
人道家の“センセイ”は、軍に追われ焦りまくっているボブを冷静にサポート。
空手道を尊ぶキャラクターが頼りになるヒーローなのは日本人としてはうれしい限り。
りりしい道着姿のデル・トロがうやうやしくもチャーミングな“センセイ”を巧みに演じている。
共にリアルなキャラクター描写と緩急自在のストーリー
テリングで観る者を惹きつける2人が『KIMI サイバー
トラップ』(’21年/配信)、『プレゼンス 存在』
(‘24年)に続き、3度目のタッグを組んだ注目作だ。
マジメな顔して、素っ頓狂なことばかりするクセ者
キャラクターたちが織りなす、奇想天外なストーリー
が特徴的なウェス・アンダーソン監督・脚本の最新作
は、デル・トロを当て書きしたという破天荒な大富豪
ザ・ザ・コルダが主人公。シリアスな役柄が定番の
デル・トロがシリアスな演技そのままに、アンダーソン
監督ならではのシュールなコメディワールドの住人に
なりきっているギャップが楽しい。
ニューヨークの移民夫婦が負う秘密
“夫婦”の在り方について考えさせる
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『ラスト~』で主演男優マーロン・ブランドとのラブシーン撮影の直前、ベルトリッチはマリアに
「もっと踏み込む」と軽く告げただけで、マリアの承諾なしに過激な性描写シーンを撮影する。
問題となった「バター」のシーンが劇中でも描かれるが、突然の屈辱的な行為に苦悶し慟哭する
マリアの顔のアップのみが長く捉えられる。
『ディストラクション・ベイビーズ』(’16年)、
『宮本から君へ』(’19年)の鬼才・真利子哲也
監督による6年ぶりの最新作は
サスペンスタッチのヒューマンドラマ。
https://www.searchlightpictures.jp/movies/theroses
ひとまずライの自宅で休むことにした由嘉里は、ゴミ屋敷のようなライの部屋と希死念慮のある
ライに驚きつつも、なぜかライに惹かれ、そのままルームシェアを始める。
出世作となった『湯を沸かすほどの熱い愛』(’16年)や『市子』(’23年)など、辛い現実や
境遇に翻弄され、心に傷を抱えた役柄が多い杉咲。
本作の由嘉里も生きづらさを抱えているものの、他の役とは違い、明るくて微笑ましい。
タクヤ(北村匠海)と弟分のマモル(林裕太)は、新宿・
歌舞伎町を牛耳る犯罪組織の手先として戸籍売買の
闇バイトをして生計を立てている。
タクヤはマモルを弟のようにかわいがり、マモルも
タクヤを心から慕っている。
ところがある日、2人の指示役・佐藤(嶺豪一)から、
「タクヤに近づくな」という不可解な指示を受けたマモル
は、さらにタクヤが怪しげな梶谷(綾野剛)と密会して
いるのを目撃する。
社会にはびこる巨悪を倒し、虐げられる弱者を救う。
正義のためとはいえ、“革命”とはまさに血塗られた
戦闘に次ぐ戦闘(ワン・バトル・アフター・アナザー)だ。
カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンという世界三大映画祭の
監督賞を制覇した唯一の映画監督ポール・トーマス・
アンダーソンがレオナルド・ディカプリオを主演に迎えた
本作は、元革命家の男と、彼を執拗に追う軍人との壮絶
な闘いを描いたアクション活劇。
https://mtwmovie.com/
https://d-stranger.jp/
https://transformer.co.jp/m/afterthetango/