ライター:能登春子
5月30日より全国ロードショー
また、島にたった1匹で漂着したユーラシアカワウソのマーヴィンは臆病ものので、誰とも
交流しないのが安心と考えている。
そんな“こじらせ気味”のイザベルと“引きこもり”のマーヴィンが島のみんなと仲良くできるの
だろうか。
島の生き物たちの特徴を生かした大騒動はとても楽しく思いきり笑ってしまうが、新しい環境での
対人関係に悩む人には良い教訓を得られるだろう。
CINEMAライター 能登春子/木香圭介/宮島一美/石倉ことこ
長編アニメ映画デビュー作『ブレンダンとケルズの
秘密』(’09年)以降、4作連続で米アカデミー賞
長編アニメ賞にノミネートされるなど、世界中で高い
評価を受けるカートゥーン・サルーンは、アイルランドの
“スタジオ・ジブリ”とも称されている。
シネマプレイスがお届けするおすすめ映画レビューは独自の視点で新作映画をご紹介しています
近年、リアルで迫力ある映像を可能にする3DCGアニメ
が主流になるなかで、アイルランドのアニメーション
スタジオ、カートゥーン・サルーンは手描きのぬくもり
溢れる伝統的な2Dアニメーション製作にこだわり、
数々の素晴らしい作品を生み出している。
アイルランドの歴史や自然を題材に、温かみのある
映像の中で愛らしいキャラクターたちが繰り広げる
ドラマは愛や癒しに溢れ、心が洗われる。
“海のピエロ”の異名を持つ愛嬌ある風貌のパフィンを始め、あどけない顔立ちのキャラクター
たちは素朴でかわいいが、特にババのかわいらしさはハンパない! まっしろでふわふわした
羽毛にくるまれたババは体をまん丸にして転げまわり、ウーナの頭に飛び乗って移動する。
このババの動きが本当にかわいい。何の違和感も抱かずにババを頭にのせちゃうウーナも
微笑ましい。
これから新しい経験をたくさんしていく子どもたちはもちろん、窮屈な
現代社会で生きる大人たちにもぜひ観てほしい。
自分らしい生き方について考えてみたくなるから。
日本語吹き替え版では、ウーナのママの声を上野樹里が演じている。
キャラクターたちの行動を優しく見守りつつ、鋭いツッコミを入れる
ナレーションも楽しい。
かわいくて、楽しいキャラクターたちの大冒険
笑って、癒されて、考えさせられる2Dアニメ
明るく優しいパフィンのいる島を舞台に描かれるのは新しい環境への対処法。
新しい環境に入り込めず孤独感を募らせるイザベルは、ウーナが「友だちになろう」と手を
差し伸べているのに思わず払いのけてしまう。
それなのに楽しそうなウーナに引け目や嫉妬を感じてしまう屈折したイザベルの心に共感
できる人は、多いのではないだろうか。
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シネマプレイスはあんか通販とともに、楽しい情報をお届けいたします。
長編アニメ映画第6作となる最新作は、Netflixで製作されたテレビアニメシリーズ『ウーナと
ババの島』を映画化。
絶滅危惧種に指定されている海鳥パフィンのほか、さまざまな動物や鳥、魚たちが暮らす
アイルランドの小さな島を舞台にした、とびきりかわいくて、楽しくて、共感できる物語となっている。
ある日、パフィン(ニシツノメドリ)の女の子ウーナが優しいパパやママ、仲良しの弟ババらと楽しく
暮らすトンガリ島に、大きな嵐で故郷を失った動物たちがやってくる。
パフィンもたくさん増え、新しい家を作ろうと島中大わらわだ。
そんななか、ウーナはパフィンの仲間の鳥であるエトピリカのイザベルと彼女の親友である
キンケイのフェニックスに出会う。
ウーナがイザベルたちに島を案内してあげようとすると、明るく好奇心旺盛なフェニックスは
喜ぶが、内気なイザベルは逃げ出してしまう。やがて、みんなから認めてもらおうとイザベルの
したことが島中の生き物たちを巻き込む大騒動に発展する。
© Puffin Rock and The New Friends
ライター:能登春子
社会への絶望が人の心をどのように変えるのか
漆黒の世界で繰り広げられる恐怖の物語
5月16日より全国ロードショー
100年以上前にデンマークで実際に起こり、物議を醸した
恐るべき事件に着想を得たゴシック・ミステリー映画。
スウェーデン出身の若き鬼才マグヌス・フォン・ホーン
監督が脚本も手がけ、古めかしい白黒映画で描き出す
のは、人間の心の闇へ誘う大人のおとぎ話。
絶望的な状況に追い込まれた若い女性が出会うのは、
人間の姿をした怪物か救世主なのか。 史実に基づく
衝撃的なラストが注目されるが、そこに至るまでの
人物造形にも見どころがある。
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そんなトム・クルーズの情熱がたっぷり注ぎこまれたシリーズが、第1作から約30年の時を経て、
ついに最後の時を迎える。
シリーズ第8作となる本作は、第7作『ミッション:インポッシブル/デッド・レコニング PART ONE』
(’23年)との2部作として製作されており、人類を抹殺するほどの威力を持つ新型AIシステムを
めぐる壮大なストーリーが展開される。
第一次世界大戦後のコペンハーゲン。
お針子として働くカロリーネ(ヴィクトーリア・カーメン・
ソネ)は戦地へ行った夫ぺーター(ベシーア・セシーリ)
が生死不明のためにひどい貧困に苦しんでいたが、
勤め先の工場長ヤアアン(ヨアキム・フェルストロプ)
に見初められ、恋に落ちる。
ライター:能登春子
5月17日~22日まで日本先行上映
5月23日より日米同時公開
そんなときペーターが戻ってくる。
顔を負傷したペーターは顔半分を隠すマスクを付けた不気味な姿になっていた。
ヤアアンからプロポーズされ、彼の子を妊娠していたカロリーネはペーターを拒絶してしまう。
しかし、身分違いの恋は許されず、ヤアアンは母親に反対されたことからカロリーネの元を去る。
仕事も失い、再び悲惨な境遇となったカロリーネはサーカス小屋で見世物として職を得ていた
ペーターと暮らし始める。
そして、もぐりの養子斡旋を経営し、望まれない子どもたちの里親探しを支援する女性ダウマ
(トリーネ・デュアホルム)と出会う。
映画界のミッション・インポッシブルに挑み続けた
トム・クルーズの勇姿を目に焼き付けたい
『トップガン』(’86年)で大ブレイクを果たしてから
10年目の1996年、俳優として大成功を収めていた
トム・クルーズが初めて映画の製作に挑んだのが、
往年の人気テレビドラマ『スパイ大作戦』を映画化した
『ミッション:インポッシブル』。
人が不幸になっていく姿を見るのは辛く、救いようのない状況なら恐怖すら覚える。
そういう意味で、映画序盤は不幸が連鎖するカロリーネの行く末にドキドキし、息を詰めて
見入ってしまう。
不幸に追い詰められたカロリーネは突飛な行動を取り、恐ろしい顔になったペーターの存在も
ミステリアスで不穏な雰囲気を高める。
何を考えているか分からない怖さを秘めた人物たちのドラマはダウマの登場で、さらに怪しさを
増す。
面白いのは、お墨付きの題材ゆえにトム・クルーズの
映画プロデューサーとしての力量が試されるプロジェクト
だったが、トム自身が主演し、映像の魔術師の異名をとる
サスペンス・アクション映画の巨匠ブライアン・デ・パルマ
が監督を務めた同作は、決してどこにも触れてはいけない
部屋の中へ侵入する緊迫感あふれるスパイシーンや、
列車を舞台にした疾走感あふれるアクションシーンなど、
見ごたえ満点のスパイ大作戦となり、大ヒットを記録した。
ダウマの助言に従い、子どもを産んで里子に出したカロリーネは、次々にダウマの元へ託される
生後間もない赤ちゃんの乳母の役割を引き受け、ダウマの家で暮らし始める。
すると、親切なダウマのイメージを覆す行動を目の当りにするようになる。
映画冒頭、さまざまな人間の顔が歪み、次々にコラージュされていく映像は
気味が悪いが、内面の見えない人間の怖さを思い知らされる。
近年、日本でも肉親同士、あるいは信じられない動機による死傷事件が
増えている。
それは未来に希望の持てない社会への絶望が無縁とは言い切れないのでは
ないか、と本作を観て考えさせられた。
衝撃的なだけでなく、現代に通じる社会問題を想起させる物語は、世界中で
高い評価を受けている。
(C)2025 PARAMOUNT PICTURES
以降、シリーズ化された『ミッション:インポッシブル』は、スパイ仲間たちが華麗な連携プレイを
見せるスリリングなスパイシーンとともに、次第にトム自身がとんでもなく危険なアクションシーン
を演じることが大きな話題となってきた。
ドバイの超高層ビルの窓をよじ登ったり、ビルとビルの間をジャンプしながら疾走したり…、
「失敗か!」とドキッとさせられるユーモラスなシーンも加えながら、トムがひたむきに命がけで
挑むアクションシーンはアクション映画の醍醐味とともに、スター俳優トム・クルーズの偉大さを
感じさせる。
映画序盤で、イーサン率いるIMFチームが成し遂げた過去のミッションが矢継ぎ早に流れるシーン
はエモーショナルだ。
数々の名場面に懐かしくなりながら改めて思うのは、短髪で精悍な第1作のトム・クルーズの
かっこいいこと!
本作でもトムのアクションに注目が集まるが、そんな単純なアクション映画ではない。
ルーサーやベンジーなどイーサンの長きにわたる相棒たちが印象的な活躍を見せる一方で、
懐かしいキャラクターを登場させ、驚かせる。
前作から登場した女殺し屋パリス(ポム・クレメンティエフ)はキレッキレのアクションで楽しませて
くれるなど、しっかり練り上げられたキャラクター描写にも見どころがある。
5月9日よりロートショー
ライター:能登春子
7年ぶりの人気映画シリーズ第3作
大人も楽しめるハートフルコメディ
世界中で愛されるイギリスの人気児童小説『くまの
パディントン』を実写で映画化した『パディントン』
シリーズもまた、愛すべきファミリー映画として高い
人気を誇っている。
鈴木亮平と有村架純が熱い思いのこもった演技で見ごたえある作品にした。
謎の繁田家の家族を演じる酒向芳、キムラ緑子、六角精児ら名バイプレイヤーたちは
笑いと涙を誘う名演を見せる。
10歳の息子ビリー(カスパー・クノプフ)と4歳の娘メイベル(ミラ・ヤンコビッチ)を育てるブリジット
(レネー・ゼルウィガー)は悲しみから立ち直れない日々が続いていたが、生活のために
テレビ局のプロデューサーとして仕事に復帰する。
悩めるポップスターを“サル”が演じる
共感と感動を呼ぶ挑戦的なミュージカル映画
見世物小屋で虐げられていた者たちの魂の叫びを
謳った迫力あふれるパフォーマンスが感動を呼んだ
ミュージカル映画。
『グレイテスト・ショーマン』(’17年)で長編映画監督
デビューを飾ったマイケル・グレイシー監督が、再び
オリジナリティあふれるミュージカル映画を作り上げた。
© 2024 UNIVERSAL STUDIOS,
STUDIOCANAL AND MIRAMAX
ライター:能登春子
愛する人と結ばれる結婚は、愛する家族のもとを去ることでもある。
家族の間で、うれしさと切なさが入り混じる結婚式。悲しいことが原因の秘密を
抱えたフミ子の結婚は大きな切なさを伴うけれど、最後には最高の幸せを与えて
くれる。
“花まんま”というタイトルの意味がわかるラストシーンに涙が止まらない。
本作ではマークの死から4年後、2人の子どものシングル
マザーとして生きるブリジットの新たな幸せ探しが始まる。
3月28日よりロートショー
テイク・ザット時代を含めたロビーの楽曲が次々に飛び出すミュージカルシーンが見ごたえ満点だ。
ロンドンのリージェント・ストーリートを封鎖したダイナミックな楽曲『Rock DJ』、2003年に開催
されたネブワース・コンサートを再現したエキサイティングな楽曲『Let Me Entertain You』、
ほかにも『Angles』や『She's The One』など、ロビーの名曲たちに込められた深い意味を
多彩な映像で伝えるグレイシー監督の演出手腕が光る。
3月20日よりロートショー
ライター:能登春子
(C)2024 Conclave Distribution, LLC.
3週間後、コンクラーベ前日。
世界中から高位聖職者である枢機卿たちがバチカンに集まってくる。
コンクラーベの期間中、彼らは外部からの介入や圧力を遮断するため外部と接触を禁じられた
隔離状態に置かれる。
この物語の主人公は奈良県に暮らす、現在89歳
になる西畑保さん。
彼は過酷な幼少時代を送り、学校へ通えなかった
ことから大人になっても読み書きができなかったと
いう。
アメリカ社会をまとう不穏な空気を吹き飛ばすかのように、独自のメッセージを込めた楽曲を
作り上げていくディラン。
数々の歴史的なライブパフォーマンスを再現したステージシーンが何といっても見どころだ。
なんと、ディランを演じるティモシー・シャラメが劇中の楽曲すべてを実際に現場で歌っている
という。
甘い顔立ちでアイドル的人気の高かったティモシーが、本作の力演で実力派俳優へ脱皮するか
どうかも注目される。
2月28日よりロードショー
ライター:能登春子
さて、人類を救う使命を託されたイーサンは仲間たちとは離れて孤独なミッションへ向かう。
イーサンが海底に沈んだ潜水艦に1人で潜り込み“エンティティ”を倒す武器を探すシーンは
水との過酷な闘いが圧倒的なリアリティをもって描かれる。
そして、クライマックスはなんと飛行中のステアマン(飛行機)を舞台にした空中でのアクション
シーン。
イーサンが宿敵ガブリエルの乗る飛行機を追い、後から離陸する別の飛行機に捕まり空へ
飛び立つ。
イーサンがガブリエルの飛行機に飛び移ろうとするシーンは水面から1万フィートの高度で
撮影されたという。
上空の尋常じゃない風にあおられ、揺れるトムの頬から撮影の過酷さが伝わってくる。
その理由は、やはりパディントンが魅力的でかわいいから。
つぶらな瞳や柔らかな物腰、何事にも真摯な態度など、
礼儀正しく紳士的な、くまというパディントンの内面の
良さが伝わるキャラクター造形が見事。
モフモフのくまが赤いハットをかぶり、青いダッフルコート
を身に着けた姿は愛くるしく、パディントンの一挙手一投足
に目が離せない。
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ところが彼の妻の姿は見えなかった。
リードは「妻はブルーベリーパイを焼いている」と言い、確かにブルーベリーパイの香りも
しているが…。
あらゆる宗教に精通するリードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開する“異端者”。
リードの罠により家に閉じ込められた宗教家の女性たちが彼の歪んだ宗教観に翻弄されながら
逃げ出そうする過程がスリリングに描かれる。
ブリジットの新たな愛の行方が見どころだが、アラフィフのブリジットならではの愛し方を見つける
終盤のエピソードにほっこりする。
ブリジットの元彼でプレイボーイのダニエル・クリーヴァーを演じたヒュー・グラントは
より一層のナンパぶりに笑ってしまう。
スターの名声と引き換えに劣等感にさいなまれたロビーの半生を描くにあたり、ロビーを “サル”
に見立てたのはグレイシー監督のアイデア。
ロビーがステージ上の自身を「サルのようだった」と語ったことに基づいているので、きちんとした
意味のある挑戦だ。
“サル”のロビーを説得力あるものにするために、ロビーの胸の内に迫った繊細なストーリーと圧倒的
にカッコいいミュージカルシーンが用意された。
貪欲な悪者たちを生み出した
見応えある俳優たちの力演が見どころ
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閉ざされたシスティーナ礼拝堂で行われる選挙は全108人の枢機卿による無記名投票で、
1人が2/3以上の票を得るまで繰り返し行われる。
1日目の選挙は有力候補の4人に加え、意外なことにローレンスにも票が入り、誰も必要得票数
の72に達しなかったことから2日目の再投票へ持ち越されることになる。
寿司職人となり、結婚し、2人の娘を育て上げた西畑さん
は、定年退職後の65歳から夜間中学へ通い、読み書き
を習い始める。
それは、読み書きのできない彼の「手」となり支えてくれた
最愛の妻・皎(きょう)子さんに感謝の気持ちを込めた
ラブレターを書くためだった。
名曲に秘められたボブ・ディランの苦悩
旬の俳優ティモシー・シャラメが魂の熱唱
2016年、歌手として初めてノーベル文学賞を受賞した
ボブ・ディラン。
世界にあまたいる偉大な音楽家たちの中でもその存在
は別格であろう。
1962年、フォーク歌手としてデビューしたボブ・ディランは
反戦運動や公民権運動など政府への不満が高まる
アメリカで、プロテスト(反政府)ソングとも呼ばれる
『風に吹かれて』や『時代は変る』を発表し、瞬く間に
“時代の代弁者”となっていくが…。
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有力候補者の1人に前教皇の死に関連しそうな疑惑が持ち上がったことを
皮切りに、次々に聖職者たちの裏の顔が暴かれていく。
より良い新教皇を選ぶために疑惑の解明に奔走するローレンスも、実は
新教皇の座を狙っているのではないだろうか。
不穏な雰囲気をたたえたレイフ・ファインズが終始、観る者を惑わせる。
本作は、西畑夫妻の愛と涙の結婚生活を描いた心温まる
ラブストーリー。
デビュー作にして、第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞
を受賞した染井為人原作の傑作サスペンス小説が待望
の映画化。
「生活保護ビジネス」をテーマに、貪欲で自分本位な人間
たちの悪意が充満した恐怖の世界が描かれる。
エンターテイメントの枠組みの中で生活保護制度の在り方を問いかけた問題作。
どんなに悪者たちがはびこっても、「善意の力」を信じられるラストに希望を感じる。
テイク・ザットでは才能あるメンバーとの比較に苦しみ、ソロ転向後は人気アーティストとしての重圧
に押しつぶされるロビー。
常について来る劣等感を消し去るために虚勢を張り、ドラッグやアルコールに溺れ、彼を心配する
恋人や家族、仕事仲間が離れていく。
孤独になったロビーの前に現れたのは父の幻影。
父に認めてもらえない悲しみが劣等感の源だったロビーは父との複雑な関係を乗り越えようとする。
3月20日よりロートショー
ライター:能登春子
クライマックスシーンの舞台に選ばれたのは、2001年に行われたロイヤル・アルバート・ホールでの
スウィング・コンサート。
父との思い出であり、自身の原点でもある『マイ・ウェイ』を歌う“サル”の姿に胸を打たれるのは
ロビーの辛い歴史をしっかり描いてきたからだろう。
ロビー・ウィリアムスを知らなくても、彼の魅力がしっかり伝わる爽快なエンターテイメント作品に
仕上がっている。
船岡市の社会福祉課でケースワーカーとして働く
佐々木守(北村匠海)は同僚の宮田優子(伊藤万理華)
から「先輩の高野(毎熊克哉)が生活保護受給者の
シングルマザー・林野愛美(河合優実)に肉体関係を
迫っている疑いがあるので、真相究明を手伝ってほしい」
と相談を受ける。
ローマ教皇を選ぶ緊迫の3日間
閉ざされたコンクラーベの闇に迫る
バチカン市国の元首にしてカトリック教会の
最高指導者、ローマ教皇を選出する選挙
〈コンクラーベ〉の内幕をスリリングに描いた
ミステリー映画。
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現代では、ラブレターの作成に苦心する保の姿をユーモラスに描きながらも、
ついに完成した35年分の想いが詰まったラブレターの内容には涙を誘われる。
それは一途に皎子を想う保のいじらしさ、彼の幸せを心から願う皎子のけなげさ
が感じられるから。
そんな現代の保と皎子を演じた笑福亭鶴瓶と原田知世の自然体の演技が光る。
1961年、ギターを片手にした青年(ティモシー・シャラメ)がニューヨーク・マンハッタンにやってくる。
彼の目的は、敬愛するフォークシンガーのウディ・ガスリー(スクート・マクネイリー)に会うこと。
人気絶頂でありながら難病を患い、退役軍人病院に入っているガスリーの病室を訪れた青年は
ガスリーのために作ったという歌を聴かせる。
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陰謀と策略にまみれ、3日目までもつれたコンクラーベ。
疑心暗鬼の塊となった枢機卿たちはどのような新教皇を選んだか。
750年以上前から続く厳正な選挙ルールにのっとり、秘密裏に行われるコンクラーベを
重んじる保守的なカトリック教会への挑戦的なラストが圧巻だ。
今年度の米アカデミー賞では8部門にノミネート。
『裏切りのサーカス』(’11年)のピーター・ストローハンが脚本を手がけ、米アカデミー賞
脚色賞を受賞した。
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微笑ましい動機で読み書きの勉強を始める優しい保を笑福亭鶴瓶が演じ、保の挑戦をそっと見守る
穏やかな皎子を原田知世が演じている。
保が夜間中学で四苦八苦しながら勉強する現代の生活の狭間に、保と皎子の若き日が描かれる。
保は読み書きができないことを隠して結婚したこと、そんな保の秘密を知った皎子が彼を労わった
ことなど、保の悩みを共有し、寄り添いながら生きてきた夫婦の歴史が徐々に明らかになっていく。
若き日の保と皎子を演じるのは重岡大毅と上白石萌音。
重岡はやがて笑福亭鶴瓶へと繋がる、明るく人懐こい保を生き生きと演じ、演技巧者の上白石は
さすがの安定感だ。
本作は音楽の分野にとどまらず、文化や社会、そして
人々の人生にも大きな影響を与えてきたボブ・ディランの
原点に迫った伝記映画。
まだ“名もなき者”だったディランの心の成長を静かに
見つめている。
玄関を封鎖された2人はリードから裏口へ通じるとして、“BELIEF(信仰)”と
“DISBELIEF(不信仰)”と書かれた2つのドアを示される。
いかにも怪しげなドアの選択から始まり、リードに曰くありげな質問を次々に
投げかけられ、さまざまな選択を迫られる女性たち。
何が正しい選択なのか? 間違えたら何が起こるのか? 彼女たちの内面に迫り、
彼女たちさえ怪しく見える謎めいたストーリーは衝撃的な出来事が展開し、
ハラハラドキドキしっぱなしだ。
大阪の下町で暮らす加藤俊樹(鈴木亮平)とフミ子
(有村架純)の兄妹は両親を早くに亡くし、2人きりで
生きてきた。
亡き父との約束を守り、フミ子の親代わりとなった
俊樹は「兄貴はそんな役回りやで!」とぼやきながらも、
フミ子を大切に思い、懸命に守ってきた。
4月11日よりロートショー
ライター:能登春子
オフィシャルサイト
すると、その場にいたガスリーの親友で人気シンガーのピート・シーガー(エドワード・ノートン)が
青年の類い稀なる才能を見抜く。
そして、その青年はボブ・ディランと名乗り、プロ・ミュージシャンとしてのキャリアを始める。
描かれるのは、1961~1965年までの成功と苦悩に彩られたディランの青春時代の物語。
フォークソングの名曲『風に吹かれて』のイメージに囚われていたディランが、そのイメージを
見事に打ち破った重厚なロックサウンドの『ライク・ア・ローリング・ストーン』を誕生させるまでの
軌跡を、ディランを取り巻くフォーク歌手たちの関係とともに綴っていく。
監督は『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』(’05年)、『LOGAN/ローガン』(’17年)
など、多彩なジャンルで才能を発揮するジェームズ・マンゴールド。
約60年も前に成し遂げたボブ・ディランの功績や、混沌とした時代に生きた人々を
支ええたフォークソングの魅力を再認識できる作品である。
上映時間は2時間49分だが、まったく長さを感じさせない。
ほかにも見どころのシーンはまだまだあるが、文字では
伝えきることができない。
肉体の限界に挑み、可能な限り生身のアクションシーン
で観る者を楽しませようとしたトムの心意気をぜひ劇場で
感じてほしい。
超人的なミッションを成し遂げ、達観したようなイーサンの
心のうちが感じられるラストシーンが印象的。
まさに映画界のミッション・インポッシブル(実行不可能
な任務)が完了した、記念すべき作品と言えるだろう。
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一方、ブラウン家では、ブラウン夫人(エミリー・モーティマー)が家族のことで悩んでいた。
長女のジュディ(マデリン・ハウス)や長男のジョナサン(サミュエル・ジョスリン)、ブラウンさん
(ヒュー・ボネヴィル)、バードさん(ジュリー・ウォルターズ)などがそれぞれの事情を抱え、
家族で顔を合わせる時間がほとんどなくなっていたのだ。
4月25日よりロートショー
ライター:能登春子
イギリス・ロンドンのブラウン家で居候するパディントン
(声:ベン・ウィショー)は念願のパスポートを取得し、
晴れてイギリス国民になれたことがうれしくてたまらない。
ヒュー・グラントのサイコパスが怖すぎる!
A24が仕掛ける本格派のサイコ・スリラー映画
イーサン・ハント(トム・クルーズ)や、ルーサー(ヴィング・ウィガム)、ベンジー(サイモン・
ペック)らIMFのエージェントたちは、女スリのグレース(ヘイリー・アトウェル)を仲間に加え、
暴走するAI“エンティティ”を破壊するための2つの武器を手に入れようとする。
前作に続いて敵役にはイーサンと深い因縁を持つガブリエル(イーサイ・モラレス)、さらに恐るべき
は驚異的な速度で進化し暴走するAI“エンティティ”。
人類の知能では到底及ばぬ悪事を可能にするAIを相手にイーサンはどんな闘いを見せるのか。
AIの暴走をテーマにした近未来的なストーリーは複雑でわかりにくいが、約30年にわたるシリーズの
積み重ねが結実する本作は、過去作を見直しておくとより楽しめるだろう。
原作では「暗黒の地」として表現されるペルーを舞台に、ルーシーおばさんを探すミステリアスな
アドベンチャーはやがてパディントンのルーツに迫っていく。
ヒュー・グラントと言えばハンサムで柔和な笑顔がトレード
マークで、’90~2000年代には“ロマコメの帝王”として
軽妙でロマンティックなラブストーリーで絶大な人気を
博した。
そのため、かつての明るく爽やかなイメージに囚われ、
サイコ・スリラーへの出演に違和感を抱く人も少なく
ないだろう。
オフィシャルサイト
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そんな中、パディントンの元へ故郷ペルーから手紙が届く。
老グマホームで暮らす、パディントンの育ての親のルーシーおばさん(声:イメルダ・スタウントン)
が「パディントンに会えず寂しがっている」という。
途方に暮れるパディントンに、ブラウン夫人がペルーへの家族旅行を提案する。
そうして、ブラウン一家とペルーへやって来たパディントンだが、ルーシーおばさんは何かを
求めてジャングルに入ったきり、行方不明になっていた。
『ミッドサマー』(’19年)、『エブリシング・エブリ
ウェア・オール・アット・ワンス』(’22年)など、
近年、多彩なジャンルで独創的な快作を数々
生み出し、新作が常に注目を集めるスタジオA24が、
ヒュー・グラントを主演に迎えたサイコ・スリラー映画。
異端者の家は暗闇の中、どんな仕掛けが飛び出すか分からない“お化け屋敷”を歩いて
いるような恐怖とスリルに満ちている。
監督と脚本を務めるのは静かなホラー映画という逆転の発想で生々しい恐怖を体感させ、
スマッシュヒットを記録した『クワイエット・プレイス』(’18年)の脚本家コンビとして
注目を集めたスコット・ベックとブライアン・ウッズ。
人それぞれがさまざまな神に救いを求める“宗教”というミステリアスな世界を大胆に分析し、
驚愕の異端者を作り上げた。
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大ヒットを記録したシリーズ1作目から実に24年。年齢相応の風格を身につけたレネー・
ゼルウィガーが恥ずかしいドジを連発する、愛すべきブリジットをチャーミングに演じて
いるのが本当にうれしい。
情に厚く、気のいい俊樹や周囲の人々がフミ子の結婚を心から喜ぶ微笑ましい序盤から一転、
徐々にフミ子の不審な行動をめぐりミステリアスな展開になる。
フミ子が俊樹に隠れて滋賀県彦根まで会いに行き、まるで家族のように親密な繁田家の人々とは
何者なのか。
生まれながらにある秘密を抱えたフミ子が一瞬、怪しく怖い存在に映るが、彼女がその秘密を優しく
受け止めていたことがわかると、物語は再びほのぼのとした雰囲気を取り戻し、
心温まるクライマックスへ向かう。
うまくいかないことばかりのイケてない日常もなんの
その、幸せな人生を求めてポジティブに生きる天然な
魅力にあふれたヒロイン、ブリジット・ジョーンズが
9年ぶりに帰ってきた!
そんなフミ子が同じ大学に勤める中沢太郎(鈴鹿央士)と結婚することになり、ようやく肩の荷が
下り、ほっとする俊樹。
しかし、フミ子が不審な行動をとるようになり、俊樹には幼い頃に抱いたある不安がよみがえる。
人気ロマンティックコメディ『ブリジット・ジョーンズの
日記』シリーズ第4作。
ままならない人生を自分らしく生き抜く
ブリジット・ジョーンズに元気をもらえる
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ルーシーおばさんだけでなく、パディントンのアイデンティティを見つける
冒険の旅はパディントンに大切なことを気づかせてくれる。
ブラウン一家の危機も効果的に生かし、家族の絆について考えさせるラストは
ハートフルで大人の心もじんわりと温めるだろう。
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4月25日よりロートショー
ライター:能登春子
しかし、穏やかな表情と紳士的な物腰で厳かにサイコ
パスを演じるヒュー・グラントの恐ろしいこと!
本作でヒュー・グラントは米ゴールデン・グローブ賞や
英国アカデミー賞など、数々の映画賞の主演男優賞に
ノミネートされている。
原作は俊樹とフミ子の子ども時代の物語だが、映画版は大胆にアレンジされている。
原作ファンは大人になった兄妹の物語に驚くかもしれないが、原作のラスト近くに
数行書かれた兄妹のその後の姿から着想し、結婚をポイントにした映画版もとても
感動的だ。
前作で腐れ縁のように繋がれていたマーク・ダーシーと
ついに結婚し、子どもにも恵まれたブリジットだったが、
マークはスーダンでの人道支援活動中に死亡してしまう。
パディントンの日本版声優は俳優の松坂桃李が続投。
ペルーの観光ボートの船長ハンター役でアントニオ・バンデラスが出演。
秘密の匂いを漂わせるハンターを怪しくも楽しげに演じているのも
見どころ。
モルモン教の女性宣教師、純朴なシスター・パクストン(クロエ・イースト)と冷静なシスター・
バーンズ(ソフィー・サッチャー)は布教活動のため森に囲まれた一軒の家を訪れる。
ドアベルを鳴らすとリード(ヒュー・グラント)という気さくな男性が出てくるが、教義のため男性だけ
の家に入れない2人は帰ろうとする。
そんな2人を引き留めるようにリードが妻も在宅していると話したため、2人は安心してリードの
家の中へ入る。
鈴木亮平と有村架純の共演で贈る感動作
優しい思いにあふれたファンタジー映画
直木賞を受賞した朱川湊人原作の短編小説を
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(’18年)
の前田哲監督が映画化。
最愛の家族を失うという残酷すぎる運命から生まれた
優しい愛の物語。
悲しみを抱えた人々のために幸せを贈ろうとする
兄妹の姿が描かれる。
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悲しみを乗り越えるためにマッチングアプリに登録してしまうのはブリジットらしいご愛敬だが、
セクシーで聡明な29歳のロクスター(レオ・ウッドール)と結ばれてしまったり、ビリーの小学校
の先生で、マークばりに生真面目なウォーラカー(キウェテル・イジョフォー)とはマークさながら
の気まずい関係になったりと、対照的な2人の男性がブリジットの前に現れて、さあ、どうなる…?
伴侶との死別やワンオペでの育児と仕事の両立など、これまで以上に深刻な状況に陥った
ブリジットが弱音を吐きながらも、母親としても女性としても自分らしい幸せを見つける姿が
温かいユーモアを交えて描かれる。
本作はイギリス出身の世界的ポップスター、ロビー・
ウィリアムスの半生を映画化したものだが、主人公の
ロビーを演じるのはなんと動物の“サル”!
ド派手なステージで観客を熱狂の渦に巻き込むロビー
らしいとも思えるユーモラスで斬新な試みは、好き嫌い
が分かれるかもしれない。
しかし、自信満々なパフォーマンスの陰で常にロビーの
心の中にあったのは、「自分は何者でもない」という
劣等感だったという。
愛しい子どもたちや、どんな状況も笑い飛ばし、励ましてくれる友人たちに
囲まれたブリジット。
今が〈最高!〉と思える人生を生きていることがとてもうれしい。
そんなコンプレックスを抱えて生きるロビーの心を具現化したのがサルの姿だとすれば、自分を
自虐的に見つめながらも“Better Man(より良い人間)”になることを目指す“サル”に共感
せざるを得ない。
物語はロビーが12歳の頃から始まる。
ロビーは大好きな父ピーター(スティーブ・ペンバートン)の影響でフランク・シナトラの歌番組を
夢中になって観ていた。
しかし「サッカーの決勝を観に行く」と言い残した父はそのまま家に戻らず、数年後、スタンダップ
コメディアンになっていたことが判明する。
父と再会したロビーは父の下で働こうと考えたが、ボーイズバンドのオーディションに合格し
アイドルポップグループ「テイク・ザット」のメンバーとしてデビューすることになる。
オフィシャルサイト
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しかし、偶然の繋がりから高野ではなく、真面目で気弱な佐々木が「生活保護ビジネス」の
企みに巻き込まれてしまう。
善から悪へと豹変する北村匠海や、裏社会の怖さを十二分に伝える窪田正孝、自堕落な愛美に
なりきる河合優実など、「クズとワルしか出てこない!」と評判を呼んだ原作のキャラクターたちを、
リアルによみがえらせた俳優たちの力演に圧倒される。
さらに、竹原ピストルが悪役に挑戦。
佐々木を陥れようとする生活保護費の不正受給者・山田をひょうひょうと演じて不気味な
悪ぶりを見せる。
「愛美と美空の親子を助けたい」という佐々木の善意が悪者たちに利用され、事態は
とんでもない方向へ。
クズやアクが勢ぞろいしたクライマックスシーンでは、壮絶な修羅場が展開する。
ローマ教皇が心臓発作で急逝した。
イギリス人の主席枢機卿トマス・ローレンス(レイフ・
ファインズ)は悲しみに暮れる間もなく、新たな教皇を
決定するためのコンクラーベを執り行う重大な責務を
負う。
ライター:能登春子
笑福亭鶴瓶と原田知世が夫婦役で共演
大切な人への愛にあふれた感動の実話
3月7日より公開
製作総指揮に名を連ねたロビー・ウィリアムスは自身の声を演じ、
モーションキャプチャースーツを使った動きの撮影にも協力、
映画のシーンに合わせて楽曲を歌い直すなど前代未聞の映画
プロジェクトに尽力した。
ロビー役は俳優のジョノ・ディヴィスが演じ、『ロード・オブ・
ザ・リング』シリーズのWētā社が視覚効果を施し、リアルな
サルのパフォーマンスを実現した。
(C)2025 映画「悪い夏」製作委員会
一方、愛美は幼い娘・美空と2人暮らしだが育児放棄寸前で、高野の要求に従いながら怠惰な
日々を送っていた。
そんな愛美の事情を知った裏社会の住人・金本(窪田正孝)は、高野を脅迫しホームレスを
生活保護受給者に仕立ててその金を搾取する「生活保護ビジネス」を企てようとする。
ローマ教皇といえば世界中に14億人以上もいる
カトリック教徒にとっては〈神〉とも崇められる存在
だろうが、果たしてその実像は?
権力と理想、欲望と良心、さまざまな思惑が
絡み合う聖職者たちの“心理バトル”が幕を
開ける。
落ち着いているように見えてトラブルだらけのパディントンの奮闘を楽しく描いたドタバタ
コメディではあるが、生まれ故郷のペルーでのトラブルはパディントンにとっては深刻だ。
ロンドンの都会暮らしに慣れ、野生の勘を失ってしまったことに戸惑うパディントンが
いじらしい。